車の中に二人の男性の姿が見えました。最初は何をしているのかよくわかりませんでしたが、一人の男があきらかにビデオカメラとおぼしきものを手に、前方のマンションを撮影していました。
駅からつづく道路の角にあるその五階建てのマンションは、階段の窓を透してすべての踊場が丸見えでした。その階段をいま、中年男性がゆっくりと上がっているのが見えました。車内の男がこの男性を撮影しているのは明らかでした。二人の男は調査員と思われます。
でなければマンションを上がっていく人間を、こっそりビデオにおさめる事などしないでしょうから、中年男性が向かっている部屋には、浮気相手の女性が待っているとみてまちがいないのでは。
以前知人の既婚男性が、やはり浮気の現場を調査員に調べられ、彼らに調査を依頼した妻に報告されて、とんだ愁嘆場を演じた話を聞かされたことがあります。
自分ではうまくふるまっているつもりでも、必ずどこかにボロが出るものとみえます。最初は遊びのつもりでも、そのうち女性の方が本気になりだし、かれら夫婦のところへ電話をかけたりするようになっては、もはや遊びですますこともできなくなり、結局その夫婦は破局を迎えることになりました。
似たような話は世間に掃いて捨てるほどあり、男の中には必ずといっていいほど、浮気の虫がすみついています。おしどり夫婦といえば、浮気とは無縁の強い信頼感で結びついた夫婦を例えていう言葉ですが、本当はおしどりのオスは一年ごとに相手をとっかえひっかえするほど浮気っぽい鳥だといいます。
人間もしかり。よほどの堅物ならいざしらず、たいていの男性はそばに若くてきれいな女性がいると、なにかしら注意をひかれるものです。そこから浮気にはしるかどうかは、これまでの夫婦関係のよしあしが左右するのかもしれません。しかし現代は、浮気調査員という職業が繁昌する時代です。
いくらあなたが、妻はなんにもしらないからと安易に考えていたら、いつか目の前に隠し撮りされたビデオをつきつけられることになりますよ。ご用心、ご用心。